1.栽培の基本
土には植物を健全に育てる力が本来備わっており、植物には人の手を借りなくても与えられた土に根を張り、土から養水分を吸収し、葉を中心に光のエネルギーを受けながら生育していく力が備わっている。 このような土の偉力や植物の育つ力を深く理解し、その力を最大限に生かすよう、次のことを基本に栽培を行う。
(1)自然観察に心がける 「自然尊重・自然順応」を基本とする自然農法の栽培では、自然を観察する力を養い、自然の優れた仕組みをほ場に再現することが大切である。 自然を観察する力を養うには謙虚に自然と向い合って、四季折々の土の状態や植物の生育、また日々変化する土壌や作物を観察することが大切である。
(2)土の偉力を発揮させる 作物の良不良は土壌に大きく影響されるため、土の偉力を発揮させるにあたっては、あとで示すように、土壌を汚さず、活性化させ、根伸びのよい土壌に育てることが基本である。 したがって、土の偉力を最大限に生かす自然農法では、化学合成された肥料や農薬などの資材を使用しない。
(3)愛情を持って作物を育てる 自然農法は栽培環境に適した作物やその品種を、適した時期に栽培することが基本である。 栽培にあたっては栽培環境を作物に適した状態に整える心配りが求められる。すなわち、愛情をもって作物の生育を注意深く観察し、作物が健全に育つよう作物の特徴に合わせた栽培管理をする。
(4)自然農法で生産された種を用いる 種はその後の生育、品質、さらには生産の目的の達成に大きく影響するため、自然農法に合った品種を選ぶことが大切である。 また、種は自らのほ場に近い場所で生産した方が、遠隔地のものより栽培する土壌や環境に適合しやすく、その地域の気候・土地などの地理的条件に順応し、環境の変動や病害虫にも強い性質を持っている。したがって、自然農法で栽培し、その地域で自家採取した種を用いることが望ましい。
2.実践のあり方
(1)土壌を生かす 土壌が土の偉力を発揮できるよう次のことに努め、土壌を生かす。
①作物や草の生育状況や土壌診断などで、土壌の状態を知る ②根伸びを良くするため、暗渠、明渠などの排水改善や堆肥や客土などの適切な方法で、土壌の化学性、物理性、生物性を改善する ③適切な有機物の施用に心がけるとともに、耕起の仕方や作付けのあり方を工夫する ④農業機械により土壌が踏み固められ、根の伸びが妨げられることのないよう、機械を選び、使用回数を必要最小限に抑える
自然農法の実施当初は土壌は作物を育てる力が弱っていることが多いので、作物の根伸びを良くするよう、土壌に合わせて堆肥などを活用する。 また、作物はマメ科やイネ科などの科の違う作物を組み合わせ、できるかぎり休閑せず栽培する。 自然農法を継続することで土の偉力は発揮され、土壌中の生き物の種類と数は豊かになり、作物は多くの根を張るよう
になるなど、栽培がしやすくなっていく。また、同じほ場に同じ作物を栽培し続けると、その作物に適した土壌となり、生育はさらに良くなる。
(2)自然堆肥の活用 自然農法では落葉や草を材料とした自然堆肥の活用を奨励する。堆肥の使用によって土壌は乾きにくい、温まる、根伸びが良くなるといった効果が得られる。 堆肥の活用にあたっては次の点に努め、自らの土壌に合った方法を工夫する。
①堆肥は自家製を原則とする ②堆肥の原料には地域の身近な素材を活用する ③未熟な堆肥は作物の根の障害や病害虫の発生などの問題が生じやすいので、土壌に混入せず表面に被覆する ④使用する堆肥の量は土壌の状態や作物の生育を見ながら決める
(3)家畜糞堆肥 自然農法では、家畜糞堆肥を使用しないことが原則である。 ただし、自然農法で奨励する自然堆肥の材料は入手が困難な場合が多く、一方、家畜糞による大気、水、土壌などの汚染が社会的な問題になっている。そのため、適切な処理をした家畜糞堆肥にかぎり、暫定的に活用できるものとする。 家畜糞堆肥の選択には原料のもとである家畜の健全性が重要であり、製造の方法や管理に細心の注意を払う必要がある。また、使用する場合には次のことに注意し、必要最小限の使用にとどめる。
①家畜はできるかぎり放牧を中心とした良好な環境で飼育し、自然農法で栽培された飼料を与えることが望ましい ②完熟させてから使用する ③使用する堆肥の種類と量は土壌の状態を見ながら決める
(4)補助資材 有機質資材、土壌改良資材などは、あくまで土の偉力が発揮されるまでの補助資材である。 使用にあたっては作物の健全性を確保、維持することを目的とし、次の点に注意し、適切に利用する。
①自給資材や地域で再生可能な資材を使用する ②土壌診断などでほ場の実態を把握したうえで適切な資材を選択する ③使用量は必要最小限にとどめる ④木の枝や皮を原材料としたものは土壌の中で分解しにくいため、2年以上かけて堆肥化させたものを使用する
(5)種と苗 種のもつ性質や苗質が栽培や品質に大きく影響するため、次のことに努める。
①自然農法に適した品種を選ぶ ②種は栽培ほ場に近いものを選ぶことが望ましい ③苗は自然農法による自家育苗に努める
また、組換えDNA技術を用いて作り出された種を使用しない。
(6)栽培管理 栽培にあたっては気候や土壌の条件や作物の特徴に合わせ、次のことに注意し、栽培管理を行う。
①種まきや定植などは適期に行う ②日当たりと風向きを考慮し、畝立を行う ③適切な栽植密度で栽培する ④適度な水分管理をする
(7)施設栽培 自然農法では適期適作が基本である。したがって、施設は旬の作物を容易に作るための手段として利用することが望ましい。すなわち、ビニールハウスやトンネルなどは作物の特徴にあった環境条件を作り出し、作期の幅を広げたり、病害虫の発生を抑えることに利用する。
(8)被覆 土壌表面が裸地状態にあると、土壌は風雨や太陽光の影響を直接受け、過湿、過乾や急激な温度変化を生じやすく、作物の生育に影響するため、次のような被覆を心がける。
①作物残渣や刈り草などで被覆する ②樹園では良好な生態系を維持するよう草生栽培などを行う ③被覆作物は栽培する作物との相性などを考慮して活用する
(9)草の管理 自然農法では除草剤を使用しない。そのため、ほ場の草をよく観察し、その種類や生態を知り、適切に管理することが大切である。 草の管理にあたっては草が作物の生育を阻害しないよう、次のことに努める。
①作期の選択、耕起法、中耕、土寄せ、被覆など耕種的方法を基本とする ②作物の生育を阻害する草は早期に抑える ③除草機具は適期に活用する ④草の管理は作物の根を傷めないように行う ⑤畦畔の草は天敵や病害虫の発生生態を考え、管理する
自然農法の開始当初は作物を育てる上で競合する草が多い。自然農法を継続することで草の種類が変わり、作物と共栄する草が増える。
(10)病害虫への対応 自然農法は化学合成農薬を使用しない。そのため、自然農法での病害虫への対応は、作物の体質改善や病害虫が出にくい環境を整えることを基本とし、次のように行う。
①土壌を生かすことよって、作物が健全に育ち、病害虫に強い体質になるように心がける ②天敵の種類と数を豊かにするため、前後作、混作・間作、障壁作物などを取り入れる ③病害虫が発生した場合、その病害虫をできるだけ早く特定し、その生態に合った適切な手段を講じる
自然農法の開始当初は作物の体質が弱く、また天敵の種類や数も十分でないため、堆肥の活用、抵抗性品種の導入、混植などによる植物の共栄関係の活用などによって、作物の体質を速かに改善する。
3.栽培上の注意点
これまでに述べてきた事柄を適切に行う上で、次のことに注意する。
(1)ほ場の管理 ほ場とは畦畔を含めた田畑、樹園をいう。施設栽培では施設内だけでなく、その周囲の畦畔を含めた範囲をほ場とする。 ほ場には消費者や見学者が見たとき確認しやすいよう標識を設置し、次のことに注意し、管理する。
①周辺ほ場などとの境界を明らかにする ②自然農法による作物栽培を継続する ③自然農法で禁止されている資材の飛散や流入などによる汚染が考えられるほ場では、汚染防止の対策を取る ④自然農法で禁止されている資材などで汚染されていない水の使用が望ましい
(2)農業機械と農具、農業資材 自然農法では農業機械と農具、農業資材の使用について、次の点に努める。
①農業機械と農具は自然農法用で専用化することが望ましい ②農業機械と農具の使用にあたっては、自然農法で禁止されている資材による汚染を防止するため、清掃と洗浄を行う ③プラスチックなどの農業資材はできるかぎり使わず、竹の支柱など環境に配慮した農業資材を使用することが望ましい ④ほ場では農業資材やゴミの焼却または廃棄を行わない ⑤自然農法で禁止されている資材の容器や袋などをほ場に持ち込まない
(3)計画と記録 栽培記録は自らの栽培を見つめ直し、技術を高めるための大切な資料になる。また、自らの生産する農産物がどのように育てられたかを消費者に伝える上でも大切な情報源となるため、次のように記録し、保存する。
①栽培する前に、ガイドラインに沿った、作付けごとの栽培計画(品目、生産量、使用予定資材など)を立てる ②耕起、播種および定植、栽培管理、収穫、保管、出荷などの記録を正確につける
4.登録
本事業団では全国に地区会員連絡会議を置き、生産者とほ場を地区ごとで審議し、自然農法として登録する。 自然農法の登録を受けると、出荷する農産物には自然農法マークを表示できるようになり、消費者は安心して自然農法産の農産物を選べるようになる。登録の概要は次の通りである。
(1)生産者の登録 生産者の登録は細則に基づいて本事業団が行う。細則は別に定める。
(2)ほ場の登録 自然農法生産者が自然農法を実施しているほ場を自然農法ほ場という。ガイドラインに従って自然農法の栽培を開始して6か月以上24か月未満のほ場は自然農法転換期間中とする。 ほ場の登録は細則に基づいて本事業団が行う。細則は別に定める。
(3)MOA自然農法ガイドライン運営委員会 理事長はガイドラインの改訂、資材の認可、その他、運用にかかわる必要な事項について調査研究および審議を行うため、学識経験者などによるMOA自然農法ガイドライン運営委員会を設置する。 運営委員会の権限、構成、業務についての規程は別に定める。
(4)資材の認可 購入する有機質資材、土壌改良資材、家畜糞堆肥および天然資材の認可および確認については、自然農法用資材の認可細則に基づいて運営委員会が行う。 資材の選択にあたっては、次のことに注意する。
①有機質資材、土壌改良資材等は、原材料や製造工程が明確なものを選び、本事業団の認可を得てから使用する ②家畜糞堆肥はできるかぎり家畜の飼い方まで確認し、原材料や製造工程が明確なものを選び、本事業団の認可を得てから使用する ③天然資材は本事業団の確認を得てから使用し、使用する場合は収穫物に残留しないよう使用時期を十分に配慮する
(5)検定委員会と検定員 理事長は自然農法ほ場がガイドラインに基づき適正に管理されているかを検定するため、地区会員連絡会議議長の諮問機関として、学識経験者、消費者、生産者からなる検定委員会を設ける。 議長は検定員にほ場確認の指示を与え、その報告を受けて、その内容がガイドラインに従っているかを検定委員会で審議する。その結果を議長に答申する。 検定委員会と検定員に関する規程については、別に定める。
(6)自然農法マークの表示 出荷する農産物には自然農法マークを表示する。自然農法マークの使用に関する規程は別に定める。
7.その他 (1)改訂 ガイドラインの改訂は、本事業団理事会の議決を経て理事長が行う。
(2)細則 ガイドラインの運用のため細則を作成し、本事業団理事会の議決を経て公布する。
附則 平成12年2月19日公布・施行。 平成13年2月24日改訂。 平成15年6月21日改訂。 平成19年2月17日改訂。
以上MOA自然農法ガイドライン― 営農のてびき― より抜粋
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